総選挙から一週間が経ちました。選挙前の大方の読み通り、自民党・安倍政権は、究極の解釈改憲である集団的自衛権の行使容認に基づく法整備や原発の再稼働を「国民の承認を得た」ものとして進めようとしています。こうした動きに対して、立憲主義や国民主権を擁護する立場から、私たちは主権者として全力で立ち向かわなければなりませんが、このような目前に迫った課題とは別に、国民主権をより豊かなものにするために、取り組まなければならないことがあると考えます。それは、「国民拒否」「国民発議」という制度の導入です。
自民党のみならず、民主党であれ共産党であれどこが政権を握ろうが、政治権力は時として主権者の多数意思に反するような政治・行政を行うものです。それは、日本に限らずどこの国でもそうで、そういうことが一切ない政府・政権などあり得ません。そこで、スイスやイタリアなどでは「国民拒否」「国民発議」という制度を設けて、政府と主権者・国民の意思のねじれを解消しています。
具体的に紹介しましょう。イタリアでは2009年にベルルスコーニ政権が、長らく続いていた「脱原発」政策を転換。2013年までに原発建設に着手し2020年までに最初の原発を稼働させる計画を立てました。そして、それを遂行するために必要な複数の法律(ここでは「原発再開法」と呼ぶ)も整えました。しかしながら、この「原発推進」計画に反対する国民が、野党の呼びかけに応える形で署名を行い、主として原発再開を望まない人々が、憲法の規定に基づく50万筆以上の連署を添え、憲法裁判所に国民投票の実施を求めて提訴しました(2010年)。そして、2011年6月に「原発再開法」を廃止するか否かの国民投票が実施され、投票者の95%が廃止に賛成。ベルルスコーニ首相は、主権者・国民の意思に従い、「原発再開」の断念を宣言しました。このように、既に制定されている法律の廃止や改変を主権者が求めることができる制度を「国民拒否」といい、スイスでは「国民発議」(イニシアチブ)と同様、頻繁に活用されています。こういう制度があると、政権政党は、自分たちが保持している議員の数にものを言わせ国民が納得できない法律を強引に制定したり、国民が望んでいる法律制定をサボることが難しくなります。
私たちが、議員や政治家にモラルを持てとか立憲主義を損なうなと批判するのは意味がないとは言いませんが、それで彼らが過ちを犯さないのなら苦労はなく、この国の政治や行政はとっくの昔にすばらしいものになっていたでしょう。本当に効果をあげるためには、議会主権、内閣主権ではなく、国民主権が保障されるための制度の導入が必要なのです。
私たちの国に、スイスやイタリアのような制度があれば、(選挙で勝ったからと)政府と国会の多数派によって「原発再稼働」や「集団的自衛権の行使」を行うための法整備がなされたとしても、それを連署と国民投票で拒否することができるのです。そして、いったんそうした制度を導入すれば、自民党政権であれ共産党政権であれ、どんな政権下でも主権者・国民の意思に反する法律は葬り去られることになります。
みなさんが、選挙に対して強い関心を抱くと同時に、こうした制度について、学び・考え、導入を求める声をあげることを、私は20年以上前からずっと呼びかけてきましたが、応じる人は少なく、ただ「選挙に行きましょう」「自民党の候補者を落としましょう」という声が響くのみ。みなさんは、選挙の制度的不備、限界というものを、もう十分に理解されたはずです。今現在、この国にその制度がないからとあきらめるのではなく、どうか、国民主権を具現化するために、選挙(間接民主制)のみの片翼飛行ではなく、国民投票(直接民主制)との両翼飛行について、主権者として真剣に考えてみてください。このままでは、制度不備な選挙で選ばれ多数を制した議員が好き勝手をやる政治が進むだけです。