インタビューを受けてくれたカレンさん、リンゼイさん

投票結果の解説とアンケート、現地インタビュー。


日本でもスコットランドの住民投票の様子が大きく取り上げられていたようだが、ご存知の通り独立反対が過半数を超え、スコットランドはイギリスに留まる事が決まった。

その投票結果を世論調査を元に少し詳しく見ていきたい。

 

投票結果新聞記事

投票結果新聞記事

○投票日2014年9月18日(木)

○設問「Should Scotland be an independent country?(スコットランドは独立するべきですか?)」

○開票結果賛成 1,617,989(44.7%)反対 2,001,926(55.3%)投票率 84.5%

32地域のうち賛成が上回ったのはダンディー(57%)グラスゴウ(53.5%)ノース・ラナークシャー(51%)ウエスト・ダンバートンシャー(54%)の4地域。

 

 

投票後の調査をベースにした考察

まず、調査会社「LORDASHCROFT」が実施した投票直後の調査を元に考察する。

 

○投票理由賛成に投じた主な理由「イギリス中央政府への不満」74%。

独立賛成派は民族主義的な感情もないではないが、民主主義的な権利の確立を一番に望んでいるという「もうイングランド中心の政治に振り回されるのは嫌だ。」というのが世論調査で明らかになった。スコットランドは社会保障などを厚くして、格差を減らし、核廃絶を目指しているのに対し、UKはイングランド中心の保守党による公共事業の縮小、経済優先、核の平和利用を進めている。スコットランドの選挙で選ばれてもUK議会ではほとんど力を発揮できないという長年の不満が表出している形である。

 

反対に投じた主な理由「ポンドが使えるかどうか不確実」57%。

反対派による「ポンドを使わせない」という脅しが多くのスコットランド人の心をUKに引き留めた。

 

両者に共通の投票理由「National Health Service(国民保険サービス)」と呼ばれる、収入に関わらず医療が受けられる仕組み。45%

 

賛成派は「独立しなければ維持する事はできない」反対派は「独立したら維持できない」と主張していた。

 

○投票傾向

●「男性の方が若干、独立賛成派が多かった」

男性 賛成47% 反対53%

女性 賛成44% 反対56%

男性に比べて、女性は不確実な未来を選択することには消極的。これは他の独立を求めているカナダのケベック州や、スペインのカタルーニャでも同様の傾向がある。

 

●「若者は賛成、お年寄りは反対」

年代別賛成率

16,17歳 71%

18-24歳 48%

25-34歳 59%

35-44歳 53%

45-54歳 52%

55-64歳 43%

65歳 27%

 

若者の賛成理由はイギリス中央政府への不満など、とにかく現状の変化を望んでおり、お年寄りはそれを望んでないという結果が明確に現れていると考えられる。この結果を見ると、次の世代でまた今回のような住民投票が起こったら独立が現実化するとも見る事ができるが、若い時は賛成でも年を取るにつれ、独立反対になるのかもしれない。18-24歳で賛成の割合が落ち込んでいるのは「独立した後も仕事がきちんと続けられるのか不安」という理由からだと考えられる。

 

●「低所得者層は賛成、富裕層は反対」

賛成派の勝利した4つの地域はいずれも低所得者層がスコットランド平均よりも多く、また失業率も高い地域だった。スコットランドではワーキングシェアなどを実施しており、現在の失業率はイギリス4カ国で一番低くなっている。また独立白書によるとイギリスは32のOECD加盟国の内、格差が大きい国で7番目に位置しているので、これを是正していくというのが、独立の公約の一つだった。一方、富裕層は新たな負担が増える事を懸念して反対に投じている。

 

○次に独立住民投票をやるのはいつ?

5年後    31%

10年後  17%

次の世代  24%

もうしない 19%

わからない 9%

独立賛成派の人だけで見ると、5年後にもまたやりたいという人が45%もいる。まだ、結果に納得できず、バッジなどを付けて自己主張を続けている人もいるが、早期実現は難しいだろう。一方、独立反対派の中では「もう二度とやらない」と答えた人が25%にも上っている。

 

次にコツコツと取り続けたアンケートの集計結果とそれについての考察を述べたいと思う。

 

スコットランド「独立」住民投票 アンケート

アンケート用紙

アンケート用紙

 

期間2014年9月15日~9月23日

サンプル数 104人(エディンバラ 64人 グラスゴウ  40人)

若者を中心に対面調査。10代から70代の男女

 

協力:翻訳 金子誠人 アンケート補助 Elin Johansson

 

 

Q1. 今回の「独立」について住民投票に賛成か反対ですか?

(独立に賛成か反対かではありません)

 

賛成  87人(83.7%)

□ 「独立」のように大切なことは住民投票で決めるべき。

83人(賛成と答えた人のうち95%)

□ 政府の決定と主権者・国民の多数意思がねじれていると考えるから。

28人(32%)

□ その他

7人(8%)

・人びとの問題は人びとで決めるべき。

・全てのスコットランド人も投票できるようにするべき(国外に住んでいる人も含めて)…など

 

反対 17人(16.3%)

□ これはUK全体のことなのでUKのreferendumで決めるべき。

9人(反対と答えた人のうち53%)

□ 民衆は正しい選択をすることができないので議会に任せるべき。

3人(18%)

□ 正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべき。

8人(47%)

□ その他 1人

(6%)

 

考察:

実に83.7%の人が、住民投票に賛成している。この数値は今まで調査をした、リトアニア、ブルガリア、スイスの中で最も受け入れられているReferendum(国民投票/住民投票)だと言える。UKの住民投票にかけるべきという反対理由や正しい情報がきちんと行き渡ってから実施すべきという理由も今回の住民投票には反対の立場だが、住民投票自体には反対していない。状況を整えることが重要だという指摘だと考えられる。

 

Q2. 16歳以上が投票権を持つということについてどう思いますか?

 

賛成 73人(70.2%)

□将来にわたって影響が大きい若い世代も投票をさせるべき。

54人(74%)

□十分に判断力を持っているので投票させるべき。

38人(52%)

□その他

9人(12%)

・結婚すること、軍隊に入ることなど仕事を選ぶことができるのだから投票権も持つべき。

・若い時から政治に興味を持つ人が増えるから。

・年齢はもんだいではない。きちんと複合的で複雑な政治的な情報を与えることが大切。若者の意見を無視していい理由はない。

 

反対 31人 (29.8%)

□ 投票するには若すぎる。

28人(90%)

□ その他

3人(10%)

・親や、友達の影響が大きすぎる。

 

考察:

今回、16歳17歳が初めて投票をするという機会を得た。そのおかげか、出会った16歳17歳の学生が皆、独立について考え、学校でも議論をしているという。更に日本の中学生にあたる10代前半の世代にも関心が広がっていて、やはり学校でも授業でも独立について頻繁に話しているという。投票年齢を引き下げるということは、それだけ関心を持つ人を増やし、世代間議論を深めるきっかけになると考えられる。

 

Q3.  いつから「独立」というテーマに興味を持ち始めましたか?

□2014年~ 投票日が近づいてきてから

26人(25%)

□2013年~ 盛り上がってきてから

26人(25%)

□2012年~ 住民投票をすることになってから

20人(20%)

□2011年~ 前回のスコットランド選挙辺りから

5人(5%)

□2000年~ スコットランド議会ができてから

10人(10%)

□1990年代~

3人(3%)

□それ以前

11人(11%)

□現在も興味がない

2人(2%)

 

考察:

まず、始めに断らなければならないのは、若い人を中心に話を聞いているということ。しかし、それを鑑みても、この結果は興味深い。それは住民投票は「興味がなかった人にも興味を持たせるきっかけになる」ということだ。住民投票をきっかけに今まであまり興味のなかった人達も、70%を越える人が「独立」に興味を持ち始めている。

 

Q4.誰と「独立」に関しての話をしますか?

□親

58人(56%)

□兄弟

41人(39%)

□親戚

48人(46%)

□子ども

13人(13%)

□学校の友達

68人(65%)

□地元の友達

61人(59%)

□インターネット上

24人(23%)

□bar や公園などで知らない人など

37人(36%)

 

考察:

学校の友達や、地元の友達や親と話をする人が半数を超えている。また、知らない人とも36%の人が議論をしていたというのも興味深い。実際にカフェや、道ばたで知らない人同士が議論をしているのを目撃した。

 

スコットランドの首都エディンバラに住むリンゼイさんとカレンさんに話を聞いた。彼女達は幼なじみで長年一つ屋根の下で一緒に暮らしている。

インタビューを受けてくれたカレンさん、リンゼイさん

インタビューを受けてくれたカレンさん、リンゼイさん

 

Lindsay Aitken(リンゼイ・エイトケン)さん(31)

「私は1999年、スコットランド議会ができてから独立問題に興味を持ち始めて、先日の住民投票では賛成に投じました。しかし結果としてとても大きなチャンスを逃してしまって、とても悲しく思っています。でもこれが民主主義なのだから、受け入れています。親や、兄弟、親戚、学校の友達などと、道でもカフェでもよく話をしていました。同居しているカレンさんとも意見が違いますが、最後の数ヶ月は特によく話しました。」この後、スコットランドは良くなると思いますか?と尋ねると「キャメロン首相が提示した権限委譲がどこまで認められるかがまだわからないので、これから、どうなっていくかについて今断言するのは難しいです。ただ今、言えるのはとにかく2015年の総選挙が大きな転換点になるでしょう。ここで、スコットランド人の考えがもう一度、問われるのです。」

 

Karen Johnston カレン・ジョンストン(31)

彼女はリンゼイさんとは違い、独立反対に投票した。お渡ししたアンケートには「16歳以上の投票権にも賛成」と答えている。そこで僕は「16歳、17歳では71%が賛成に回っていますが、それでも若い彼らの投票権に賛成なのですか?」と聞くと「どっちに投票したかの問題ではありません。彼らの未来に大きく影響することなんだから、彼らは投票するべきだと思うし、投票できて良かったと思います。」と揺るぎない。カレンさんは2013年から周りで独立問題についてたくさん議論されるようになってきて、興味を持ち始めるようになったと言う。カレンさんは今回の住民投票を振り返って「今までの選挙ではこんなにみんなで考えて議論することはありませんでした。次の総選挙はもうすぐだから、今回の住民投票のように盛り上がると思います」と話してくれた。

 

彼女達は一緒に生活しているが賛成と反対で意見が違う。一緒に討論番組などを見て、その後にお互いの意見を言い合ったりしていた。時には感情的になることもあったけれど、それくらい重要な決断をしなければならなかったのでお互いに情熱的に議論したという。そして、それだけの話し合いをしても結局意見が違うままでだが、二人とも楽しそうに今も仲良く暮らしている。意見の違う人と徹底的に議論をして、最終的にお互いの意見を尊重する。この民主主義の根本を彼女達二人から教わった気がする。

 

 

例えば、日本で「原発の再稼働」あるいは「憲法9条の改正」などについて「国民投票にかけよう」と提案すると、賛成派、反対派の両派から「負けるかもしれないから嫌だ」という声が少なからずあがってくる。そのように考えている人たちにはもう一度、彼女達の二人の話を振り返っていただきたい。リンゼイさんは賛成に投じたが、結果反対派が多く、彼女の主張した独立は達成されなかった。しかし、彼女は住民投票をやらなければ良かったとは思っていない。次の総選挙につながっていく過程なのだと認識している。負けたからといってそれで終わりなのだとは思っていない。またカレンさんは16歳17歳の圧倒的多数が、自分の主張とは違う投票をしているにも関わらず、彼らを有権者から排除しようとせず重要性を鑑みて、投票権を認めている。このような考えを持っているのは彼女達だけではない。そのことは上記のアンケートでも明らかである。

 

国民投票は「自分たちの主張を通すため」に行うものではない。世論が大きく二分されている、命や倫理、将来の方向性などの重要な問題に関して主権者である国民が直接自分たちの責任で投票を通じて判断を下すというものである。結果も重要であるが、それが全てではない。独立は国民によって、否決されたが独立運動を牽引してきたスコットランド国民党は、急激に党員数を増やし、ついにスコットランド人口の1%に及ぶ52万人に達した。また独立を訴えていた緑の党もスコットランドで1700人だった党員が6000人を越えるまで急成長している。今回の独立をかけた住民投票でスコットランドは変わった。今まで以上に、政治について学び、メディアを鵜呑みにせず、議論をするようになった。キャメロン首相の提言を注視し、次の総選挙に活かすという。

 

日本でもスコットランドの住民投票を受けて「今こそ、日本のエネルギー政策、とりわけ原発政策について国民投票が検討される時期ではないかと考えます。」 http://kaiedabanri.jp/opnion/201409225755.html と海江田万里衆議院議員の発言もあった通り、これから国民投票に向けた議論が本格化していくであろう。埼玉県でも「原発」に関する住民投票を求める署名運動が来月から始まる。その時には勝ち負けがどうなるかも、もちろん大切なのだがそれ以上に大事なのが、それまでにどれだけ多くの人を巻き込むことができるのか、結果如何に関わらず両派がより良い未来のために、次の「政治」「原発政策」を作っていくかである。今こそスコットランドのように「国民投票」や「住民投票」などの直接民主主義的な参政権を通して「政治」を政治家のものから、国民みんなのものにしていくべきである。