イタリア

異議申し立てを生かし、政府・国会の暴挙を覆すための制度の導入を


安保法制ごり押しから導き出すべきこと
行政府、立法府への多数の異議申し立てを生かし暴挙を覆すための制度の導入を/今井 一

世論調査によると、安保(戦争)法案を廃案にすべきだと考えている人が6~7割に達している。国会前をはじめ、各地で集会・デモが開催され、大勢の人が参加した。
にもかかわらず、政府および国会で多数を占める自民党、公明党は、この違憲の法案を来週半ばにも可決・成立させようとしている。
「民意を無視し、憲法と立憲主義を侵す政治を止められない、くやしい」
「民意とのねじれを法的強制力をもって解消させる手立てはないのか」
そういった嘆きや怒りの声をたくさん見聞きする。
そして、このあと聞こえてくるのは「自民党・安倍政権を倒すために次の参院選、衆院選でわが党に投票してください」という共産党や民主党の訴えだ。そうした訴えを行うことは政党として当然のことで非難する気はない。主権者である私たちが法的拘束力を得てできることの代表的な行いは選挙であり、良質だと思える議員を選出することは間接民主制の基本だ。ただし、それは日本ではそうだということであり、諸外国では、日本とは異なる「異議申し立て」の有効な手を主権者が持っている。
スイス、イタリアなどでは、国会が制定した法律を、主権者の署名・発議で国民投票にかけ廃止したり、改正したりしている。
最近では、2011年にベルルスコーニ政権下のイタリア国会で可決・成立した「原発を稼働させるための法律(原発再開法)」の廃止を求める直接請求が反対派の人々によって行われ(憲法に規定されている50万筆以上の署名を獲得)、6月12、13日に「原発再開法を廃止するか否か」を問う国民投票が実施された。その結果、投票者の94%が廃止賛成に投票し、憲法の規定に則り、この法律は廃止された。
このような制度が日本にもあれば、今回の安保法制は、成立後に「廃止の是非」を国民投票にかけることができた。日本における現行制度では、異議申し立ての集会・デモは憲法で認められており、実際、今回も国会前や各地で多数の人たちが「廃案にすべし」という声を上げた。だが、法制度的には、たとえ100万人が国会を取り巻こうが、この法案あるいは法律を葬り去ることはできない。今こそ、「異議申し立て」のデモや集会への参加と並行して、こうした制度を導入する強力な運動を展開すべきではないか。
道理に満ちた話なのに、なぜこうした動きが日本で起こらないのか。それは、残念ながら、私がそうした呼びかけ・提案をしても、この20年、日本のリベラルや護憲派の人たちの多くは、支持するどころか「憲法改正につながるから反対…」 という筋違いの「理屈」で、こうした制度の導入に背を向け続けている。そして彼らは、集会、デモ、選挙での対応・反撃 を訴えるばかり。それでは、本当の国民主権、市民自治をこの国に実現させることは難しい。それは、この半世紀の歴史が証明している。

こうした問題に触れながら詳しく制度を解説するセミナーを開催します。
9月26日(土)14時半~会場は関西大学東京センター(東京駅日本橋口そばのサピアタワー9階)。
受講料は無料ですが、下記あてに、お名前、メルアド、電話番号を記してEメールで申し込んで下さい。
info.ref.jp@gmail.com(定員20人になり次第、締め切りとさせていただきます

※参考に
〈直接民主制の制度を整え、最も活用しているスイスにおけるさまざまな国民投票〉
国民発議
憲法や法律の制定改廃などについて、有権者10万人(有権者の約2%)以上の連署を条件に国民に発議権を認め、その発議の採否を決すべく行なわれる国民投票。
国民拒否
連邦法律、連邦決議の成立に際して、有権者5万人以上の連署による請求か、8州の請求があった場合、それを採択すべきか否認すべきかを国民投票に問わねばならない。
国民表決―義務的国民投票―
憲法改正、超国家的共同体、集団的安全保障機構への加盟、国際条約批准に関わる法案に関しては必ず国民投票にかけられ、国民の承認を得なければ成立しない。
国民表決―任意的国民投票―
連邦法律、連邦決議の成立に際して、それを採択すべきか否認すべきかを、政府に実施義務がなくとも国民投票にかける。

◆『「解釈改憲=大人の知恵」という欺瞞』。ぜひ御一読ください。

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