Tag Archives: リベラリズム

227月/16
挿絵 改憲

言論・報道人を対象とした勉強会の御案内

言論・報道人を対象とした勉強会の御案内

参院選は自民党安倍政権の勝利となり、集団的自衛権の行使容認という「究極の解釈改憲の固定化」に加えての明文改憲狙いという新たな段階に入りました。私たちは、主権者としてそういった状況をどうとらえ、立憲主義と国民主権を守るためにどう動けばいいのでしょうか。
いわゆる「護憲派=条文護持派」は、今後、「次の衆院選で勝利しよう」とか「発議させない運動を」と仲間に呼びかけるのでしょう。そして、そうした呼びかけに呼応するメディア、言論人が多数出てくることは容易に想像がつきます。しかしながら、「発議させない」こと(国民投票での主権者の直接決定に至らないこと)が立憲主義や国民主権を本当に守ることになるのでしょうか。それはただ、現行9条を保持したまま集団的自衛権の行使を容認した「違憲の安保法制」を固定化するだけだという意見もあります。これは議論を深めるべき問題だと思います。
あるいは、「安倍政権下での改憲(あるいは改憲議論)には反対」というセリフも最近よく見聞きします。これは今や世論調査の設問にもなっています。安倍政権は最悪なのだから他の政権時ならともかく今は改憲はもちろん議論も駄目というわけですが、そんなことを言ってる人は、民主党政権時でも小泉政権時でも反対していました。つまりずっと議論することに反対で、とにかく条項・中身に関わらず「改憲=悪」「議論=悪」なのです。そして次の政権でもそれは変わらないでしょう。
さて、言論・報道人を対象とした勉強会を下記の通り催します。
参院選挙後、新聞各紙は[3分の2]という見出しを躍らせましたが、高知新聞などが報じた通り、参院選挙時に[3分の2]の意味を理解していた国民は全体の3割にも達していません。そして、伝える側も実のところは、立憲主義や国民主権の観点から、改憲発議をどう考えどう報道すべきなのかという点について確固たるものを持っているとは思えません。 Continue reading

117月/16
2016-06-27 15.26.18

「イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと──日本での改憲発議に絡めて」(その3)

 

イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと(その2)の続き

「イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと(その3)」
日本での改憲発議に絡めて

先週来、姜尚中、内田樹ら名だたる「護憲派」言論人が、安倍改憲勢力の3分の2獲得の現実性の高まりから、こぞって「国民投票は危険だ。やめたほうがいい」とイギリス国民投票に絡めて発言している。だったら憲法96条の規定(憲法改正案は国民投票で主権者の承認を得られなければ改憲不可)をなくしたほうがいいのか?(※それとて国民投票での改憲承認が必要だが)
そうすると、ドイツのように議会の賛成(3分の2以上)だけで改憲ができる。つまり3分の2以上の議員を押さえれば政権は国民投票での主権者の承認なしに何でもかんでも思い通りに改憲できるということだ。それは国民主権(私たちの憲法制定権)を侵すし、改憲を阻止したいという彼ら「護憲派」言論人の思惑にも反する。日本国民を愚かだという護憲派は少なくないが、こんなこともわからないほうがよほど愚かだ。

安倍晋三を中心とする違憲立法容認勢力は、衆参各院で3分の2の勢力を獲得した後、以下の行動に出ることが予想される。

[A]自民、公明、おおさか維新などで先ずは憲法に「緊急事態条項」を盛り込むための改憲発議。改憲を果たした後、自分たちが勝てるタイミングを見計らって9条改憲の発議。
[B]ほかの条項よりも先に、自分たちが勝てるタイミングを見計らって(とっぱしから)9条改憲の発議。
[C]3分の2の勢力を維持したまま、自民党は負ける可能性もある国民投票を避けるために、発議できるにもかかわらず「緊急事態条項」も「9条」も改憲の発議をしないで、集団的自衛権の行使容認、安保法制の既成事実化をいっそう強める。

このうち、[C]は解釈改憲状態の固定化であって、立憲主義も国民主権も平和主義も侵す最悪の道だ。
[A][B]については、国民投票で自民案に賛成多数の改憲成立なら平和主義は侵されるが、立憲主義と国民主権は守られることになる。逆に、国民投票で自民案が多数を得られなければ、立憲主義、国民主権、平和主義の更なる破壊は止められる。破壊の拡大を止められるだけで回復はしない。自民党の改憲案を国民投票で葬ったからといって、違憲の「集団的自衛権の行使容認、安保法制」が残れば事態は変わらないから。つまり、究極の解釈改憲状態が続くということだ。
それで、「9条」について自民党案をベースにした改憲発議がなされたとして、押さえておかねばならないことを以下に記す。

Continue reading

107月/16
DSC02646

「イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと──日本での改憲発議に絡めて」(その2/全3回)

イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと(その1)の続き

イギリスでのEU国民投票。日本ではテレビのキャスターやコメンテーターらが、「大多数のイギリス人が詐欺師のような政治家に騙されて愚かな投票をした」といった発言をしているが、「離脱」に投票した1741万742人のうち、独立党のファラージ党首やボリス・ジョンソン前ロンドン市長のウソの宣伝を鵜呑みにして投票した人など一握り。数百万人がテレビ視聴したBBC主催の公開討論会においても、彼らは「嘘つき、ボリス、恥を知れ!」とサディク・カーン現ロンドン市長に厳しく批判されるなど、キャンペーン合戦の中で数々の「嘘」は暴かれていた。それでも、多くのイギリス人が選択に迷いながらも、最後に「離脱」に投票した。騙されたまま投票した人は全体の中の一部だ。

離脱派(左)残留派(右)が『メトロ紙』に出した全面広告。オモテ表紙にもウラ表紙にも

離脱派(左)残留派(右)が『メトロ紙』に出した全面広告。オモテ表紙にもウラ表紙にも

現場に足を運ばず、「離脱」に投票した人の話をきちんと聞いたこともない日本の軽薄言論人が「イギリス人はみんな騙されて離脱に投じた。バカだ愚かだ」なんて言うのは事実誤認だし傲慢。馬鹿なのは「違憲立法」をごり押しした内閣、政党、議員を今回の選挙でもまた支持している多数の日本人のほうだ。よその国の主権者を批判する前にまず自分たちの主権者としての愚かさを理解し反省すべきだと思う。 Continue reading

107月/16
無題

「イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと──日本での改憲発議に絡めて」(その1/全3回)

 

イギリスの6.23EU国民投票(投票前に解説)に続けて

【「イギリスでのEU国民投票から学ぶべきこと──日本での改憲発議に絡めて」(その1/全3回)今井一(ジャーナリスト)

「(EU離脱という)愚かな選択をした」
「もう一回投票をやり直してほしい」
投票結果が出た後、イギリス国内では一部の「残留派」からこうした声が噴出した。
日本でも同様の発言をする学者や評論家がいるが、彼らの中には現地へ行き「離脱」に投票した人の意見を聞いたわけでもないのに、「民主主義に反するもの」「こんな国民投票はやるべきでなかった」「3年前の選挙の際、実施を公約にしたキャメロン首相が悪い」としたり顔で言う人もいる。だが、私はそうした意見には同意できない。
古代ギリシアの「民衆」を意味する「デモス」と「権力」を意味する「クラティア」を組み合わせたものが「デモクラティア」(民主主義、人民主権)の語源であり、今回の国民投票はまさにそれを具現化するものだった。仮に「EU離脱」が賢くない愚かな選択であったとしても、民主主義に反していることにはならない。間接民主主義であれ直接民主主義であれ、愚かな決定は民主主義にはつきものなのだから。
また、今回の国民投票はキャメロンが党首を務める政権与党(保守党)内のEU離脱派議員(約4割)の不満を押さえ込む狙いもあっての実施だった。それも承知の上で、国民投票で決着を図ったことを私は肯定したい。その理由は3つ。
[1]イギリスはECに加盟した2年後の1975年に「EC残留」の是非を問う国民投票を実施しているのだが、あのとき以上に「EU残留」に対する懐疑心が充満している今日、こうした特別に重大な案件ついて直接国民に是非を問うのは当然だ。
[2]キャメロン×ジョンソン(前ロンドン市長)に代表されるように、政権与党が「残留・離脱」で真っ二つになっている状況で、議会や政府が「残留だ」と言い続けても多くの国民は納得しない。
[3]離脱派、残留派を問わず、国民の多数は「国民投票での決着」を支持している。

街頭で支持を呼びかける残留派の若者

街頭で支持を呼びかける残留派の若者

残留派の集会に離脱派が乱入

残留派の集会に離脱派が乱入

今回の国民投票の争点は移民流入、雇用・労働、景気・経済、農業・漁業、外交・安保等々いろいろあったが、結局多くの有権者が選択のポイントとした事柄は次の3つ。

  1. 急増するEU移民を拒むか否か
  2. EU離脱による経済的リスクを抱えるか否か
  3. EUのさまざまな規制を甘受するか否か
  1. ポーランド、ハンガリーなど東欧諸国の「EU市民」のイギリスへの流入がこの数年で急増し、その多くが工事現場や工場などで働いている。EU域内における人、物、カネの自由な移動を認めるEUのルールがある以上、イギリスもこれに従わざるを得ない。キャメロンら残留派は「移民の労働力はイギリス経済や社会保障の支えになっている」と説明したが、首都ロンドンはともかく地方都市の有権者の理解を得られなかった。一方、ジョンソンら離脱派は「移民増加によって医療や教育などの公共サービスにかかる金が増大し財政を圧迫している」という宣伝を繰り返し、労働者の中には仕事を移民に奪われているとか低賃金で働く彼らのせいで自分たちの給料も低く抑えられていると考え、彼らに対して「嫌悪、憎悪」の感情を抱くようになっている人もいる。今回、労働党が「残留」に投票という方針を明確に示したにも関わらず、支持者の相当数が方針に背いて「離脱」に投票したのはそういった理由からで、残留派敗因の一つになった。
  2. 経済については、離脱すると対EUへの輸出に1兆円近い関税がかかるようになり、外国企業の撤退を招く。それが失業者を増やし景気を悪化させるのは目に見えていると残留派は「離脱リスク」を声高に説いたが、離脱派はEUとの新たな貿易協定を結べば問題ないといなした。有権者の中にはリスクを承知で「離脱」に投票した人も少なくなく、それほど「移民の増大」や「EUによる規制」が嫌だったのだ。
  3. 離脱派が終盤戦で多用したのが「TAKE BACK CONTROL」(支配権を取り戻す)というキャッチフレーズだった。イギリスの主権がEUのさまざまな規制、ルールによって侵されている。離脱することによってそこから解放されイギリスらしさを取り戻そうというこの呼びかけはかなり効いた。

Continue reading

231月/16
DSC00686

[立憲主義と国民主権を確保するために、主権者・国民がとるべき道]連載 第3回

[立憲主義と国民主権を確保するために、主権者・国民がとるべき道]

連載第3回(全3回)

[Q.5]だけど、リトアニアやイタリアやスウェーデンと違い、日本の場合はメディアが政府に対して弱腰だし、日本人は馬鹿だから「安保法制」や「原発再稼働」の是非を問う国民投票をやったって衆愚政治になるだけでしょう。

[答]「弱腰だ」「馬鹿だ」、国民投票だと衆愚になるというなら、選挙でも衆愚になるでしょう。国民投票では愚かな選択をするけど、選挙だと賢い選択をするという主張はおかしいですよね。社会保障や景気対策など多くの争点がある中で、「安保法制」を葬り去るという候補者を多数当選させる主権者ならば、国民投票では確実に違憲の安保法制を非とします。
私はむしろ話は逆だと考えています。政党や人に投票する選挙では(結果として)愚かな選択をする主権者であっても、住民投票・国民投票では投票対象となったその一つの案件に対して、主権者はよく考え、よく学び、よく話し合って結論を出します。「原発」に関わる具体的な事例を紹介しましょう。
例えば、国会議員選挙と同時に「原発建設」の是非を問う国民投票が行われたリトアニアでは、「反原発」を掲げて選挙に参戦したみどりの党の候補者は一人も当選しませんでしたが、国民投票では原発建設に反対する票が65%に達しました(連載の第2回を参照のこと)。日本国内の住民投票に例をとると、新潟県巻町、刈羽村、三重県海山町と、首長、議員の選挙では推進派が勝っていたところで、住民投票では反対派が圧勝しています。
このように、ほぼ同じ時期に行なっているにもかかわらず、選挙と住民投票が大きく異なる結果となるのは「原発」に限ったことではなくよくあることです。最近では、大阪市の解体と特別区の設置(いわゆる都構想)の是非を問う住民投票と、その前後に実施された市長選、知事選も、結果が異なって出た事例の一つです。
メディアとの問題でいうなら、世界的に「カネ」をもっているほうがテレビやラジオといった媒体を使ってのPRを大規模に行う傾向があり、確かにそれは一定の影響があったと思われます。それでも最終的には(「原発」についての投票では)、市民派・反対派が多数を制しています。知恵と理性の勝利だといえます。 Continue reading